各地のイベントから(会報160号から)
各地のイベントから
広島県詩人協会
細見和之氏講演会
講演する 細見和之氏
六月二十一日、ホテルニューヒロデンにて、日本現代詩人会と広島県詩人協会の共催で、広島県詩集第三十二集の出版記念会を開催した。記念講演には、詩人で京大教授の細見和之氏に、「詩と歌と小説とー中島みゆきさんを手がかりに」と題して「時代」「エレーン」等を例にその背景、時代との関わり等を解説していただいた。
「エレーン」は、ヘレンという女性にまつわる実話にもとづいた曲で、「街の女」というエッセイ風の小説(『女歌』所収)にも描かれている。同じマンションに暮らしている「ヘレン」、歌では神話的存在の「エレーン」になっている。
「時代」は一九七五年十月ポプコンで、十一月世界歌謡音楽祭でそれぞれグランプリを獲得するが、それに先立つ九月産婦人科医の父親が脳溢血で倒れ、翌年一月意識を回復しないまま帰らぬ人となる。「時代」は凍えてゆく〈時代〉に対して暖かい歌の息吹でその快癒を祈った歌が同時に病床の父の快癒を祈る歌となる。通常アルバムの題名は、収録された曲名の中から選ばれるが「時代」が収録されたアルバム名は〈私の声が聞こえますか〉。これは、病床の意識不明の父の耳元で呟かれたかもしれない言葉で、同時に凍えてゆく〈時代〉に呼びかけた言葉でもあった。一九七四年に藤女子大学国文を卒業した中島みゆきは卒業後父親の病院の仕事を手伝うが、卒論が「谷川俊太郎論」だったとは……。
しかし読者諸兄姉、そんな事で驚いてはいけない。皆さんは細見氏がシンガーソングライターだということを御存知でしたか?彼はこのあと持参のギターで、自作の歌を六曲披露されました。中でも、山岳遭難死された恩師と友人だったその双子の兄弟を悼んだ「夢の中で約束の時間に遅れないように」はとりわけ心に響きました。細見和之さん、ありがとうございました。
(参加者二十六名)
広島県詩人協会 豊田 和司
詩と書・画・写真のコラボ展
「花話会」開講二〇周年記念展
山本十四尾
コロナウイルスで延期にしていた「詩と書・画・写真のコラボ展」を七月二四日から三〇日、宇都宮市内で開催した。これはボランティアで開講しつづけてきた詩の勉強会「花話会」の二〇周年記念行事のひとつ(あとひとつは『詩姿の原点』日本の詩人四三二人収録の九月刊行)である。
出品数三七点の詩と、書と画と写真の組み合わせを楽しんでもらう企画でもある。
東京の人形作家岡本和枝氏の絵と人形を中心に飾り、広島の詩人上田由美子氏の被爆手帳と油絵・詩を飾る。
栃木県では夏休みの恒例事業となっている中学生の広島見学が中止となり、せめてもの原爆詩と原爆手帳を見てほしい思いがあった。
また栃木県ゆかりの作家立松和平氏の文と、娘である画家やまなかももこ氏による『黄ぶな物語』の絵本を飾った。黄ぶなが疫病を退散した伝説が宇都宮にあり、郷土玩具にもなっている。立松氏没後一〇年と現在のコロナ退散の願いを込めて二〇年ぶりに新装された。
書は、山本十四尾の詩を神戸の亡き直原弘道が書いた額、国民文化祭第一
席を得た若き詩人の詩を、著名な書家
川又南岳氏が芸術的にアレンジした額、若いイラストレーターの絵を詩に抱き合わせた配置など実に多彩なコラボ展となった。最終日までコロナに影響されることなく盛会のうちに終了することができた。
ここで記しておきたいことは、訪れた若い詩人たちから日本現代詩人会について質問を受けたことである。地方の小さなギャラリーでのコラボ展に、後援している日本現代詩人会の規模、入会条件、活動などであった。ていねいに説明を終えたあと、そんなに大きな会もこういう地味な活動をしている詩人たちがあってのことですね、という意見を聞いた。
思えば詩の勉強会「花話会」もいつのまにか二〇年を経過している。これからも蝸牛の歩みで進んで行く。気兼ねすることなく、気負うことのない自由の歩みで。
展示会風景